研究内容・設備

研究内容

材料合成・物性評価・構造解析を始めとする実験研究をベースに、強誘電体酸化物を主な対象材料として新材料の創製と、物性の起源解明に取り組んでいます。強誘電体は外部電場により反転可能な自発分極(Ps)をもつ材料であり、この特異な構造に由来する多様な性質を示します。強誘電体をはじめとする分極性材料に関する下記の研究プロジェクトを推進しています。

1. 強誘電体光起電力効果によるエネルギー変換(強誘電体太陽電池)

強誘電体に光を照射すると強誘電体光起電力効果と呼ばれる特有の現象により光起電圧が生じます。半導体pn接合における光起電力効果は発生する電圧が材料のバンドギャップに制限されますが、強誘電体光起電力効果ではバンドギャップを大きく上回る電圧が生じます。当研究室では、強誘電体への不純物元素ドープやドメイン構造制御によって、強誘電体光起電力の増強に取り組んでおり、新規な光電変換デバイスへの実現に向けた実験的な材料開発と、密度汎関数理論計算による基礎物性の解明に取り組んでおります。

関連論文
  • Yuji Noguchi, Yuki Taniguchi, Ryotaro Inoue & Masaru Miyayama, “Successive redox-mediated visible-light ferrophotovoltaics”
    Nature Communications 11, 966 (2020).
    https://doi.org/10.1038/s41467-020-14763-6
  • Hiroki Matsuo, Yuji Noguchi, Masaru Miyayama, Takanori Kiguchi, and Toyohiko J. Konno, “Enhanced photovoltaic effect in ferroelectric solid solution thin films with nanodomain”
    Applied Physics Letters 116, 132901 (2020).
    https://doi.org/10.1063/1.5142880
  • Hiroki Matsuo, Yuji Noguchi, Masaru Miyayama, “Gap-state engineering of visible-light-active ferroelectrics for photovoltaic applications”
    Nature Communications, 8, 207 (2017).
    https://doi.org/10.1038/s41467-017-00245-9

2. 新規分極性材料の創製

強誘電相と反強誘電相の中間的な性質を示すフェリ誘電相を世界に先駆けて発見しました。本研究では,フェリ誘電相における特有な分極ツイスト機構を利用して、電場印加により誘電率や圧電歪定数が飛躍的に増強される新材料の創製に取り組んでいます。

関連論文
  • Yuuki Kitanaka, Masaru Miyayama, and Yuji Noguchi, “Ferrielectric-mediated morphotropic phase boundaries in Bi-based polar perovskites”
    Scientific Reports, 9, 4087 (2019).
    https://doi.org/10.1038/s41598-019-40724-1
  • Yuuki Kitanaka, Kiyotaka Hirano, Motohiro Ogino, Yuji Noguchi, Masaru Miyayama, Yutaka Kagawa, Chikako Moriyoshi, and Yoshihiro Kuroiwa, “Polarization twist in perovskite ferrielectrics”
    Scientific Reports, 6, 32216 (2016).
    https://doi.org/10.1038/srep32216

3. 次世代強誘電体薄膜キャパシタの開発

強誘電体は従来から積層セラミックコンデンサ(MLCC)に用いられ、多くの電子デバイスに使用されています。さらに強誘電体薄膜は不揮発性メモリーや、エネルギー貯蔵用キャパシタとしての利用も可能であり、強誘電体材料の飛躍的な性能の進化が求められています。我々は格子欠陥や応力の制御、超格子構造の設計によって、既存材料を凌駕する性能を有する誘電体材料の開発を行っています。

関連論文
  • Yuji Noguchi, Hiroki Matsuo, Yuuki Kitanaka & Masaru Miyayama, “Ferroelectrics with a controlled oxygen-vacancy distribution by design”
    Scientific Reports, 9, 4225 (2019),
    The top 100 downloaded physics papers for Scientific Reports in 2019.
    DOI: https://doi.org/10.1038/s41598-019-40717-0
  • Yuji Noguchi, Hisashi Maki, Hiroki Matsuo, Yuuki Kitanaka, and Masaru Miyayama, “Control of misfit strain in ferroelectric BaTiO3 thin-film capacitors with SrRuO3 electrodes on (Ba, Sr)TiO3-buffered SrTiO3 substrates”
    Applied Physics Letters, 113, 012903 (2018).
    https://doi.org/10.1063/1.5031156
  • Hiroki Matsuo, Yuuki Kitanaka, Ryotaro Inoue, Yuji Noguchi, and Masaru Miyayama, “Cooperative effect of oxygen-vacancy-rich layer and ferroelectric polarization on photovoltaic properties in BiFeO3 thin film capacitors”
    Applied Physics Letters, 108, 032901 (2016).
    https://doi.org/10.1063/1.4940374

4. 分極構造を利用した固体冷却デバイス開発

日本の総消費電力の約10%を、エアコンや冷凍冷蔵庫等の冷却機器が占めています。これらの熱輸送機器は、代替フロンの圧縮膨張を利用したヒートポンプで稼働し、そのエネルギー効率は40–50%です。本研究では、次世代の冷却機器に利用可能な固体冷却技術を開発し、革新的な地球温暖化対策を我が国に提供することを目的としています。極性結晶の分極機能に由来する電気熱量効果を利用することにより、高エネルギー効率かつ温室効果ガスを使用しない新規固体冷却技術の実現を目指します。

図 従来のヒートポンプ式気体冷却機器を固体冷却に代替して削減されるCO2総量およびその原発稼働に換算した効果
関連論文
  • Yuji Noguchi, “Defect chemistry in perovskite ferroelectrics —History, present status, and future prospects— (SPECIAL ARTICLE)”
    Journal of the Ceramic Society of Japan, 129 [6], 271-285 (2021).
    http://doi.org/10.2109/jcersj2.21039
  • Yuki ICHIKAWA, Yuuki KITANAKA, Takeshi OGUCHI, Yuji NOGUCHI and Masaru MIYAYAMA, “Polarization degradation and oxygen-vacancy rearrangement in Mn-doped BaTiO3 ferroelectrics ceramics”
    Journal of the Ceramic Society of Japan, 122[6], 373-380 (2014).
    https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcersj2/122/1426/122_JCSJ-P13226/_article

5. 電場誘起相転移材料の創製と新機能開拓

電場の印加により結晶構造が劇的に変わる新材料の開発を目的としています。分極を持つ材料に電場を印加すると,電場方位の分極成分が大きくなることで系が安定化します。通常の誘電体では,この安定化効果は非常に小さく,結晶構造に及ぼす影響は観測されません。一方,戦略的に組成や欠陥構造を設計し,2つの結晶系の境界付近に位置する材料を創り込むことで,電場で結晶構造を制御できることが期待されます。
我々は,分極性材料の一つであるビスマス系酸化物の高品質単結晶を開発し,フェリ誘電相(空間群P4bm)と強誘電相(空間群P4mm)を電場により制御することに成功しました。また,フェリ誘電相は現行の鉛系セラミックスを遥かに凌駕する圧電歪定数(d33 > 1,000 pm/V)を示すことを明らかにし,非鉛圧電体の有力な候補材料であることを示しました。加えて,第一原理計算と熱力学的現象論の連携により,電場により結晶構造が制御できる電場誘起相転移のメカニズムを解明しました。

関連論文
  • Yuuki Kitanaka, Kohei Makisumi, Yuji Noguchi, Masaru Miyayama, Akinori Hoshikawa, and Toru Ishigaki, “Composition-driven structural variation in ferrielectric phase of (Bi1/2Na1/2)TiO3–Ba(Mg1/3Nb2/3)O3
    Japanese Journal of Applied Physics, 58, SLLA04 (2019).
    https://doi.org/10.7567/1347-4065/ab37c4
  • Yuuki Kitanaka, Masaru Miyayama, and Yuji Noguchi, “Ferrielectric-mediated morphotropic phase boundaries in Bi-based polar perovskites”
    Scientific Reports, 9, 4087 (2019).
    https://doi.org/10.1038/s41598-019-40724-1
  • Yuuki Kitanaka, Takuya Egawa, Yuji Noguchi, and Masaru Miyayama, “Enhanced Polarization Properties of Ferrielectric AgNbO3 Single Crystals Grown by Czochralski Method under High-Pressure Oxygen Atmosphere”
    Japanese Journal of Applied Physics, 55, 10TB03 (2016).
    http://doi.org/10.7567/JJAP.55.10TB03

6. 分極性機能の電子論的メカニズム解明

材料が示す様々な機能は,電子の振る舞いに由来します。我々は,第一原理計算や熱力学的計算を駆使することにより,分極性材料が示す機能の根本的メカニズムを,電子論に基づいて解明します。
これまでに,Bi系強誘電体において,(Bi1/2Na1/2)TiO3では菱面体晶(空間群R3c)が,(Bi1/2K1/2)TiO3では正方晶(空間群P4mm)が安定化しますが,その仕組みは不明でした。我々は,高品質単結晶を用いた実験と第一原理計算の有機的な連携により,系の安定性はBi-6p電子とO-2p電子の軌道混成が重要な役割を果たしていること,および結晶系は軌道混成する酸素が異なることに由来することを突き止めました。

関連論文
  • Yuuki Kitanaka, Yuji Noguchi, and Masaru Miyayama, “Uncovering ferroelectric polarization in tetragonal (Bi1/2K1/2)TiO3–(Bi1/2Na1/2)TiO3 single crystals”
    Scientific Reports 9, 19275 (2019).
    doi:10.1038/s41598-019-55576-y
  • Tomohiro Abe, Sangwook Kim, Chikako Moriyoshi, Yuuki Kitanaka, Yuji Noguchi, Hiroshi Tanaka and Yoshihiro Kuroiwa, “Visualization of spontaneous electronic polarization in Pb ion of ferroelectric PbTiO3 by synchrotron-radiation X-ray diffract Visualization of spontaneous electronic polarization in Pb ion of ferroelectric PbTiO3 by synchrotron-radiation X-ray diffraction ion”
    Applied Physics Letters, 117, 252905 (2020).
    https://doi.org/10.1063/5.0037396
  • Yuji Noguchi, “Defect chemistry in perovskite ferroelectrics —History, present status, and future prospects— (SPECIAL ARTICLE)”
    Journal of the Ceramic Society of Japan, 129 [6], 271-285 (2021).
    http://doi.org/10.2109/jcersj2.21039

研究設備

1. パルスレーザー堆積(PLD)装置

真空チャンバー内に設置したターゲットをパルスレーザーでプラズマ化し、対向する基板に薄膜を成膜する装置です。強誘電体エピタキシャル薄膜の作製に用いています。

2. TSSG(Top-Seeded Solution Growth)炉

酸化物やハロゲン化物、炭酸塩などを溶融した融液に、上部から種結晶を導入し単結晶を育成する引き上げ炉です。特に9気圧の高酸素圧下での単結晶育成が可能であり、低欠陥濃度の高品質な強誘電体単結晶が得られます。

3. 多目的X線回折装置

エピタキシャル薄膜の結晶構造やドメイン構造解析用のXRD装置です。高速1次元検出器を用いた高分解能逆格子マッピングに加え、2次元検出器を用いた広域逆格子マッピングや極点測定が可能です。

4. 蛍光X線装置

合成した試料の組成を定量する装置です。

5. 卓上X線回折装置

粉末試料用のXRD装置です。

6. マッフル炉

試料合成用の電気炉です。

7. クエンチ炉

酸素分圧を制御が可能なアニール炉です。

8. 強誘電体測定システム

強誘電体の分極特性や圧電特性およびリーク電流特性を評価するシステムです。

9. 光起電力効果測定システム

強誘電体に波長を制御した光を照射し、光起電力特性を評価するシステムです。

10. 低温プローバー

微小電極を用いた強誘電体薄膜の電気物性を測定するプローバー。

11. 紫外可視分光光度計

紫外・可視光領域における薄膜の透過・反射スペクトルを測定可能な分光装置。粉末拡散反射スペクトル測定にも対応。

12. グローブボックス

不活性雰囲気・低露点環境での実験が可能。吸湿性試薬の厳密秤量に用いています。

13. 原子間力顕微鏡、圧電応答顕微鏡

原子層レベルの表面形状を観察可能なプローブ顕微鏡です。圧電応答法による強誘電体のドメイン構造も観測可能です。